山口県長門市の高校に留学生としてやってきたフィンランド人の留学生マリッカさん(17歳)と日本の学校現場の先 生たちとの対談を行いました。その様子を島根の若槻先生に取材していただきました。2011年5月14日 山口県長門市日本が大好きで、流暢な日本語を話すマリッカさんに、フィンランドの学校のことや日本とフィンランドの教育の違いについて話 を聞きました。
■ フィンランドの教科書は?
フィンランドの国語の教科書を前にして、日本との違いを聞いてみました。日本では、1冊の教科書の中に、物語文、説明文、言葉や漢字等の単元がた くさんあります。一方、フィンランドでは、いくつかの大きな単元の中に、いろいろな活動があり、最後の方に「プロジェクト」という自分たちで表現をする学 習が必ずあります。
「辞書を作ろう」というプロジェクトでは、生徒が、各自辞書1ページをつくるというプロジェクトがあります。ここでは、辞書のサイズは?手書きかPC か?タイトルは?絵は?綴じ方は?…と細かなことも、子どもたちに考えさせて、自分のテーマを選ばせるようになっています。
日本では、学習内容が細分化され、それぞれの内容も事前に決められていて、理解する「IN」が中心。それに対して、フィンランドの場合は、大きなテーマ の中で、理解する「IN」と表現する「OUT」が組み込まれていて、表現方法も子どもたち自身が工夫できる内容となっています。
「総合的な学習の時間」が特設された日本。フィンランドには、総合学習という教科はないけれど、各教科の中で、プロジェクト学習という総合学習の内容がしっかり入っている!プロジェクト学習先進国の話に、参加した教員はみんな耳をそばだてて聞きました。
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まず、概念を理解させて
国語の教科書の中では、「架空」と「事実」の比較のページが見開きであり、絵を比較して考えたり、文章をつくって、まず概念を理解させて、その次 に絵から離れて、それぞれの話を作ったりする内容になっています。まず、概念の理解をすることをフィンランドでは行っています。
また、教科書の文字は、フィンランドの方が小さくて、1ページ内の情報量が多いです。
そして、見開きで、全体が俯瞰できるように工夫されています。
「全体知」を大切にすることで、俯瞰してその概念をとらえたり、実生活に結びつけて考えたりすることを大切にしているフィンランド。「部分知」を大切にし、それぞれの知識量を重要視する日本。教科書にその国の教育のねらいや考え方が表れているなと感じました。
■ プロジェクト学習やポートフォリオは?
マリッカさんの小学校(キュララン校)では、担任の先生は、4〜6年生の3年間は同じ先生で、(小学校の6年間、同じ先生の場合もあるという話に はびっくりしました。)プロジェクト好きな先生だったそうです。ある時期、生物、国語、歴史、地理、環境の5つのプロジェクトを同時にやっていたそうで す。
先生が課題を出して、それを調べる。課題は、地理ならば、一つの国のこと。面積や食べ物、人口など・・・を調べて、他のクラスに大きなポスターを作って説明するそうです。
クラスは24人で、2〜3人のチームで、国は自分たちで決めたそうです。そして、説明には、自分の気持ちではなくて、先生の課題について調べることが求 められます。ウィキベディアだけではだめ。コピーではだめ。一度頭の中に情報を入れてからつくるように言われたそうです。
ポートフォリオは、小・中・高とずっと使っており、プロジェクトでインターネットや本で調べたものを入れています。先生の示す課題には、自分で考えたも のを出さないといけないと答えるマリッカさん。国語では、特に自分で考えることが多くて、高校1年生の時、詩の本のリストを示されて、詩の意味や詩の比喩 表現について、マインドマップを作って、イメージしたことや質問を自由に書いて広げていく活動をしたそうです。先生の出す課題に「答えはありません。」と 言う彼女に、日本の学習との違いを感じました。「自分の頭で考えて、自分で書くのが一番いい」という彼女の言葉が印象に残りました。
彼女は、生きていくために必要なメディアリテラシーの重要性がきちんと分かっている。お母さん からも、「自分で考えなさい。」とよく言われたそうです。
■ 自分の頭で考えることができなかったら…大変!
もし自分で考えて判断することができなかったら?と質問してみました。彼女には思いもよらない問いだったようです。街を歩いていて、自分で考える ことができなかったら、全部人に聞かないといけなくなって大変。もし、「ここに来たらいい」という怪しい暗い扉があったら、だまされて入ってしまうかも。 ナンパされて悪い人につかまってしまうかもしれない・・・。
■ 授業中に手を挙げないのはもったいない!
マリッカさんの話では、フィンランドでは中学校や高校でも、授業中に積極的に手を挙げるのが当たり前。自分の考えを言わないと成績で満点はとれな いそうです。授業で手を挙げないのはもったいないと言う彼女は、今は日本の高校にいるので、自分の考えを言いたくてたまらない時があってつらいと話してく れました。我慢していると話す彼女に対して、申し訳ない気持ちがしました。「思春期で恥ずかしくて発言しなくなる中・高校生」にしてしまっているのは、 “日本の教育”なのだとさみしく感じました。
■ 取材・執筆:若槻徹 校長先生
日本に対する尊敬の念をもった17才のフィンランドの高校生を育てたのは、フィンランドという国の教育。マリッカさんと対談をして、フィンランド教育の 底力を目の当たりにしました。彼女が素晴らしいと褒めてくれる日本でも、国際社会を生きる、自分の考えをしっかりもった人間を育てる教育をこれから進めて いかなければいけない。対談に参加した日本の教師たちはそう感じました。
若槻徹 校長先生
島根県奥出雲町立八川小学校校長
3月まで島根県教育委員会指導主事
・島根県ホームページ大賞受賞(小学校の部、第1回1998と第5回2002)
・しまねIT大賞準大賞(2003)
平成14年度第9回コンピュータ教育実践賞(小学館)奨励賞受賞